「サイバー攻撃で狙われるのはIT企業や金融機関だけ」—そんなイメージを持っていないでしょうか。しかし実際には、いま最も狙われている業種の一つが「製造業」です。そして、ものづくりが集まる愛知県内でも、生産や物流を止める深刻な被害がすでに起きています。
なぜ、製造業はこれほど狙われるのでしょうか。この記事では、その理由を攻撃者の視点から整理したうえで、愛知県内で実際に起きた被害を振り返り、中小企業が今から何をすべきかを考えます。
なぜ「製造業」は狙われやすいのか
製造業が狙われるのには、はっきりした理由があります。攻撃者の立場から見ると、製造業は「攻撃の効果が出やすく、狙う価値の高い相手」なのです。
主な理由を5つ挙げます。
理由1:「生産を止められない」こと
工場が止まれば、1日で莫大な損失が出ます。攻撃者はそこにつけ込み、「早く復旧したければお金を払え」と迫ります。時間との勝負を強いられる企業ほど、身代金の支払いに応じやすいと見られており、止められないという事情が、かえって弱みになってしまうのです。
理由2:「価値ある情報を持っている」こと
製品の設計図や製造ノウハウ、取引先の情報などは、攻撃者にとって金銭に換えやすい“お宝”です。こうした情報が外部に漏れれば、自社の競争力が下がるだけでなく、取引先にも迷惑をかけることになります。
理由3:「古い機器やシステムが残りやすい」こと
工場では、長年使い続けている装置や、更新の止まった古いパソコンが動いていることが珍しくありません。こうした“守りの穴”が、格好の侵入口になります。
理由4:「多くの取引先とつながっている」こと
製造業は部品や物流で無数の企業と結びついています。1社に入り込めれば、そこを足がかりに取引先へと攻撃を広げられるため、攻撃者に狙われやすくなります。
理由5:「対策の手が回りにくい」こと
とくに中小企業では、専任の担当者や十分な予算を確保しづらく、対策が後回しになりがちです。攻撃者は、そうした“入りやすい相手”を選んで狙ってきます。
愛知で実際に起きたサイバー攻撃の被害
では、愛知県内では実際にどのような被害が起きたのでしょうか。
代表的な2つの事例を振り返ります。
2022年に起きた事例
県内の大手自動車部品メーカーがランサムウェア(データを人質に金銭を要求する攻撃)の被害を受け、部品の供給が滞りました。 その影響で、取引先である完成車メーカーは翌日に国内すべての工場の稼働停止に追い込まれ、約1万3千台分の生産に影響が出たとされています。被害を受けた企業の復旧には、数カ月を要したと報じられています。
2023年に名古屋港で起きた事例
コンテナを管理する基幹システムがランサムウェアの被害を受け、コンテナの搬出入作業が約3日間にわたって停止しました。工場だけでなく、「運ぶ」を担う物流の要が止まることでも、地域全体に影響が及ぶことを示した出来事です。
これらは大きく報道された事例ですが、氷山の一角にすぎません。
大きな事例だけが被害ではない
ニュースになるのは大規模な事例ばかりですが、実際にはもっと身近な被害が、規模の小さな会社でも日常的に起きています。
たとえば、取引先を装ったあやしいメールの添付ファイルを開いてウイルスに感染してしまう、経理担当者が偽の請求メールにだまされて送金してしまう(ビジネスメール詐欺)、パソコンの感染によって顧客情報が外部に漏れてしまう—こうした被害は、特別な会社だけに起こるものではありません。
公的機関の集計でも、被害に遭う企業の多くは中小企業であり、製造業は主要な標的の一つとされています。また、侵入口の多くは、社外とつなぐVPN機器などの弱点だと指摘されています。
報道されない小さな被害は、県内でも日々起きていると考えるべきでしょう。
まとめ:「自社には関係ない」と思う前に
ここまで見てきたように、製造業が狙われるのは偶然ではなく、明確な理由があります。
ただ、製造業に属する企業には中小企業も多く、いきなり十分なセキュリティ対策を講じることが難しい場合もあります。そんなときは、出来ることから始めていきましょう。あやしいメールを不用意に開かない、パスワードを使い回さない、機器やソフトウェアを最新の状態に保つ、大切なデータを定期的にバックアップする—このような「基本の徹底」こそが、攻撃者の入口をふさぐ最も確実な一歩になります。あわせて、経営層がリスクを理解し、現場任せにしないことも大切です。
「自社には関係ない」と考えるのをやめ、「自社も狙われうる」という前提に立つこと。それが、製造業を守る第一歩です。